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少女の売っているらしい『夢』。 非現実的なその商品は、例えるならば麻薬だ。
この甘美な味わいを知ってしまえば、俺はきっと、この『夢』なるものから逃れることは不可能になる。辛い現実から目を逸らし、作られた幸せに縋る毎日を送ることだろう。
けれど……。
そうだとは知っていながらも、手を出したくなるのはなぜだろうか。ダメだと思っていながらも、甘い誘惑に勝てないのはなぜだろうか。
日々の仕事と人間関係で蓄積された疲労が、今、こんなところで俺の背を押してくる。悪いことはないと。瓶の中の小さな幸せを手に入れろと。
まるで悪事を働くことを強要されているかのようだ。
「さあ、お客様」
少女がまた、首を傾げた。
「お客様の欲する『夢』は、なんですか?」
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