プロローグ 夢屋の噂

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 『夢屋』というものを知っているか?  今はもう衰退し、崩れ果てた世界にその夢屋はあるんだ。  毒ガスで満ちた通りを抜け、荒廃した都市を横切り、赤い空の下を進む。そうするとほら、見えてくるだろう?  ポツンと灯る、淡いエメラルドグリーンの光が……。  光は一つの小さな扉の隙間から漏れている。淡く、儚く、それでいて幻想的な輝きだ。  綺麗だろう?まさに夢のような輝きだ。  お前も、不思議と気持ちが高ぶってるんじゃないか?胸が高揚して、なぜだか吸い込まれるような感覚がしてるんじゃないか?  それでいい。それが正常だ。  あの光が漏れる場所こそ『夢屋』なのだから。気持ちが高まるのも仕方がない。  だって、あそこには夢がある。  夢。そう夢だ。甘い蜜のような、希望の塊。  え?そんなものがあるわけないだろう、だって?  なら見てみるといい。自分のその目で確かめるといい。  扉に手をかけ開いてみれば、淡い光がふわりと漏れ出す。同時に吹く優しい風は、どこか優しく懐かしい。  店の中をぐるりと見回せば、一番に視界に写るのは大、中、小、様々なガラス瓶。キッチリとコルクのされたその瓶たちには、値札のプレートらしきものが付けられている。  しかし、肝心の値札には何も書かれていない。稀に何か書かれていることがあっても全てミミズが這ったような字なので読むことは不可能。そしてその稀な瓶は全てショーケースや木製の棚の中に閉じ込められている。  一般客が容易に触れることができないわけだ。  おっと、ようやく興味を持ってきたな。まあこんな光景を見たんじゃ仕方ないか……。  え?違う?怪しいと思ってるだけ?  なんだ、まだ疑ってたのか。疑り深い奴だな。まあいい。  そう言うのなら、ここの店主と一度話してみるといいさ。そうすればお前もきっと、気づくだろう。  この『夢屋』が本物だと──……。
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