第二話 就寝

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「リリィはよ、甘すぎるんだよ。客に。こっちも商売なんだからちゃんとした額は貰わねえとやってけねえぞ」 「そうでもないですよ? 現状はそれなりに良いものです」  嘘ではない。実際、私は金銭的な面で特に不自由はしていないし、働いている子たちの給料だってちゃんと払えている。幾ら安く商品を売ったとしても、こちらに大した打撃はないのだ。  まあ、それもこれも、毎回高額の代金を支払ってくれる常連さんたちあってのものなのだが……。  マネくんは「そうじゃなくて」と頭を抱え、あーだうーだと悩み出す。何が言いたいんだ。ハッキリしろ。ムダにモヤモヤ感が増えていくことに多少の苛立ちを感じる。  と、その時だ。 「夜が来るー! 夜が来るよ! いらっしゃーい! おやすみする奴はバイバイさー! さっさとくたばれ就寝バイバイ! 朝になったらコケコッコー!」  陽気な声が外から聞こえてきた。成人した男性のような、しかしどことなく子供っぽさを感じさせる独特な声だ。 「げえ、もうそんな時間かよ」  マネくんはうんざりしたように頭をかき、視線を私へ。 「おいリリィ! 戸締まり早く!」 「はいはい」  言われなくてもわかっています。  話も食事も中断し、私はよいしょと立ち上がる。そのまま店の出入口を開き、一歩外へと踏み出した。
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