2人が本棚に入れています
本棚に追加
「――いらっしゃいませ」
突如として響いた声は、高すぎず、低すぎず、ちょうど良い音程の声音だった。
慌てて振り返れば、カウンターの奥に小柄な姿があることに気づく。 長く艶やかな黒髪に、海のような青さに彩られた瞳。それらを持つ人物は、まだ幼さを残す少女だった。
どことなく、子供のようなあどけなさを残した雰囲気の、少女。
腕にモフモフとした小さな毛玉を抱いているが、果たしてあれはなんなのだろうか……。
「本日はどのようなご用件でしょうか?」
貼り付けられた笑み。
いわゆる営業スマイルを浮かべ、少女は問うてくる。
「このような寂れた地に、お一人でいらっしゃるお客など珍しい。何か急なご用ですか?」
「え?」
そこで気づいた。先ほどまで共にいた男がいなくなっていることに。
最初のコメントを投稿しよう!