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慌てて辺りを見回す。
しかし、視界に写るのは様々な大きさの瓶と棚。あとは不思議な空気を醸し出す店内だけだ。人と呼べる姿をもつ者は、俺と少女以外見当たらない。
「……え、っと」
おかしい。一体何がどうなっているのだ。
もしや今まで見ていた男は幻か何かか?いや、それにしてはやけにリアルだったような……。
俺は後ろ頭を掻きながら、不思議そうな顔の少女に対し曖昧な笑みを浮かべて見せる。
「ご、ごめん。俺、なんか勘違いしてたみたい……」
「勘違い、ですか?」
少女はこてんと首を傾げた。
「あ、うん。そう。さっきまで誰かと話してた気がするんだけど、幻だったっていうかなんていうか……」
大の大人が自分より明らかに年下であろう少女に一体何を言っているのだろうか。自分で自分を情けなく思いながら、チラリと背後にある深い緑色の扉を視線だけで振り返る。
「ここに来るまでにもやたらと壊れた建物があったし、空は真っ赤だったし……きっと幻覚でも見てたんだな」
はぁ、と一つため息を吐き出す。
確かにここ最近会社勤めをキツく感じていたのは事実なのだが、まさかこのような変な幻覚まで見てしまうとは……。
いやはや、末期である。
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