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「お客様は、大変混乱しているようですね」
落ち込む俺を見てか、少女は可憐に笑う。
かと思えば、徐に腕に抱えていた毛玉をカウンターの上へと置いた。その際、毛玉が小さく震えたような気がするのは気のせいなのかどうなのか……。
「お客様。ハーブティーなどいかがですか?あたたかいものを飲めば、少しは気分も落ちつくかと」
やんわりとした物言いの少女に、俺は苦笑混じりに頷くことしかできなかった。
少女がぺこりと一礼して奥の部屋へと消えていく。恐らくハーブティーを用意しに行ってくれたのだろう。
気を使わせてしまった……。
しかも確実に年下であろう女の子に……。
少女の姿がなくなったのを確認してから、もう一度ため息を吐く。
「何をやっているんだ俺は……」
いや、本当に何をやっているんだ。
もう三十にもなるってのに仕事の疲れのせいで変な幻を見てそれに惑わされて。情けないったらありゃしない。
片手を腰に当て、もう片手で額を抑えて天井を仰ぐ。今の俺は、やるせない気持ちでいっぱいだ。
「明日も仕事だってのに……」
俺は会社勤めのサラリーマン。
仕事をして、稼いで、寝て、飯食って。そんな生活をしている、ごく一般の成人男性だ。
もちろん明日も仕事が控えている。しかも明日は確か、朝っぱらから大手企業に赴かなければならなかったはず。
しっかりしないと。
大切な商談はもう目の前まで迫っているんだ。
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