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不覚にも、犬を未知なる生物と勘違いして変な声をあげてしまった自分を、今すぐどこか深い穴の中に突っ込んでやりたいと思った。それほど恥ずかしい気持ちで満たされているのだ。悟ってくれ。
たまらずぎこちない笑みを浮かべる。
犬は小さな口を開け、ヘッヘッと口呼吸を繰り返しながら、キラキラと輝く赤い眼を俺に向けていた。
そんな目で見ないでくれ頼むから。
純粋すぎて俺には耐えられない。
バカげた言葉を心の内で告げ、両手を差し出して寄ってきた犬を抱え上げる。
人に慣れているのだろう。抱き上げても随分と大人しい。
「……おや」
声が聞こえて顔を上げた。そのままカウンター奥にある扉の前に視線をやれば、そこに銀色のトレーを手にした少女を発見する。
どうやら戻ってきたようだ。少女は柔らかな笑みを浮かべたまま、カウンターの上にトレーを置く。
「クロと仲良くしてくださっているんですね。ありがとうございます」
クロ、とはこの犬の名前だろうか。
俺は笑みを浮かべてカウンターの近くへ。少女に犬を手渡した。
「かなり人慣れしてるみたいだね。抱き上げても全然嫌がらない」
少女は邪気のない笑みを浮かべて、一度だけ頷いてみせる。
「クロが人を嫌うことは滅多にありません」
少女の細くしなやかな指先が、トレーの上に置かれたティーポットの取っ手部分をゆっくりと掴んだ。
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