第一話 夢

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 不覚にも、犬を未知なる生物と勘違いして変な声をあげてしまった自分を、今すぐどこか深い穴の中に突っ込んでやりたいと思った。それほど恥ずかしい気持ちで満たされているのだ。悟ってくれ。  たまらずぎこちない笑みを浮かべる。  犬は小さな口を開け、ヘッヘッと口呼吸を繰り返しながら、キラキラと輝く赤い眼を俺に向けていた。  そんな目で見ないでくれ頼むから。  純粋すぎて俺には耐えられない。  バカげた言葉を心の内で告げ、両手を差し出して寄ってきた犬を抱え上げる。  人に慣れているのだろう。抱き上げても随分と大人しい。 「……おや」  声が聞こえて顔を上げた。そのままカウンター奥にある扉の前に視線をやれば、そこに銀色のトレーを手にした少女を発見する。  どうやら戻ってきたようだ。少女は柔らかな笑みを浮かべたまま、カウンターの上にトレーを置く。 「クロと仲良くしてくださっているんですね。ありがとうございます」  クロ、とはこの犬の名前だろうか。  俺は笑みを浮かべてカウンターの近くへ。少女に犬を手渡した。 「かなり人慣れしてるみたいだね。抱き上げても全然嫌がらない」  少女は邪気のない笑みを浮かべて、一度だけ頷いてみせる。 「クロが人を嫌うことは滅多にありません」  少女の細くしなやかな指先が、トレーの上に置かれたティーポットの取っ手部分をゆっくりと掴んだ。
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