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「榊仁兵衛! 昭和を代表する大仏師のひとりじゃないですか。空襲で焼けた国宝の修復でも有名だ。近年では作風を広げられて西洋人形なども発表されていると聞いていましたが……そうですか、亡くなられたのか……」
ひとり思惟する蒼偉をよそに、兵藤は言葉を続けた。
「そのナントカ人形ってのが現場に山程あってな。価値があるのかどうかも俺には見当がつかんので迂闊に動かせないから、今度専門家を連れて行くと本部にゃ言ってある」
「で、私ですか。はっきり言って門外漢ですが」
「お偉いさん方を黙らせるには『フランス帰り』って箔が重要なんだよ。あとは密室の謎を解いてくれりゃ万事解決だ」
「密室? それはまた胡散臭い話だ」
そういう蒼偉だが表情は妙に明るい。
彼の事務所の本棚には、乱歩や虫太郎の背表紙が踊っている。
「どうだ面白くなってきただろう?」
「まあね」
兵藤の問いに蒼偉がまんざらでもなく答えると、
「よお兄弟。また一発カマしてやろうぜ」
どこまでが本気か分からないが、あの日のガキ大将がそのままそこにいた。
蒼偉は言葉につまり困った振りをしたが、にやける口元だけはどうしても抑えることが出来なかった。
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