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二人を乗せたパトカーがとある屋敷の前で止まる――榊邸だ。
どこか武家屋敷にも似た威厳のある門構えが彼らを出迎える。それをくぐると今度は綺麗に並んだ飛び石が、奥へと続く母屋までの道案内をしてくれた。
蒼偉は歩きしな、吐息混じりに中庭を眺めている。
よく手入れされた日本庭園に、四季の枝葉が舞う。これには好事家ならずとも目を細めてしまうというものだ。約一名を除いては。
「おう。なにボサッとしてやがんでぃ。日が暮れんぞ」
兵藤はひとり、先に玄関までたどり着いていた。
風情を害された蒼偉は眉の端をキリリと吊り上げる。愛用のステッキを乱暴に片肩に担ぐとすこし大股にその場をあとにした。
その時である。
鈴生りになった紅い南天の実の隙間から、大きな土蔵が見えたのは。「あれは……」と無意識に口走る蒼偉の問いに、気がつけば隣にいた兵藤が答えた。
「あれが今回の事件現場だ。榊仁兵衛はあの蔵の中で死んでいた。発見当時、蔵は完全なる密室だった。それは通報を受けた所轄の警察官達も確認している」
「密室……」
「いまから会うのが榊仁兵衛の養女で、通報者の榊京子だ。ちょいと歳は食ってるが、色気のあるいい女だぜ」
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