艶のある人形(ひと)

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「ほほぅ。俄然やる気が出てきましたね」 「何もなくてもやる気は出せよ。ほれ、その美人がおまちかねだぜ」  兵藤が親指で母屋を指すと、玄関先にはひとりの妙齢な女性が立っていた。艷やかな黒髪をうなじのあたりでまとめ上げ、細身と思われる肢体を喪服で包んでいる。  それが今はなき昭和の名工・榊仁兵衛の養女、京子であった。  すでに面識のあった兵藤が捜査を引き継いだことを説明すると、二人は屋敷の奥へと通された。不躾にも興奮を隠し切れない蒼偉の願いによって、挨拶もそこそこに彼らは仏像製作の工房へと案内される。  工房の隣には八畳ほどの小部屋があり、障子戸で仕切られていた。戸を開ければ工房と繋がるひと間となり、作業合間の憩いとして使われていたという。 「相馬さま……お茶が入りましたが……」  京子は八畳間の仕切りで膝を折り、工房に居並ぶ「作品」達へ釘付けとなっていた蒼偉に声をかけた。兵藤などはすでに遠慮する素振りもなく茶をすすっている。蒼偉が返事をする頃には、出された茶菓子へと手を伸ばすところだった。 「やや! これはどうもすみません。本来なら部外者である私に、そこまでお気を使っていただいて」 「いえ……どうぞ召しがってくださいませ」  儚げな笑顔を見せて京子は茶の席へと蒼偉を招き入れた。  立てば芍薬云々ではないが、京子の所作は非常に優美であった。座りしな、着物のすそがはだけないよう手を添える仕草から湯のみを持ち上げる振る舞いに至るまで、そのひとつひとつが洗練されていて育ちの良さをうかがえた。  蒼偉はそんな些細なことに一喜一憂し、満足気に茶の湯気を吸った。 「いやぁ。実に素晴らしい。流石は『孤高の天才』と呼ばれた榊氏の工房だ。すべてに無駄がない。そしてあの作品群。どうやら年代別に保管されているようでしたが、とくに晩年の作品など筆舌に尽くしがたい」 「あ、ありがとうございます。父も草葉の陰で喜んでいると思います」 「これは失礼を……まだ喪も明けきらぬというのに、はしゃいでしまって」  すると京子は乱れた前髪をそっと手のひらで撫でつけて一言、「いいのです」と。どこか憂いを含んだ横顔に、蒼偉は思わず息を呑んだ。 「さて。そろそろ情況の確認といきたいんですがね」
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