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「2、3日前からこのような感じでして…普通な時もあるのですけどね」
加藤さんが私に耳打ちする。
お義母さんに異変が起きている…
どう対処していいのかわからなくて立ち竦む私の肩に、加藤さんがそっと触れた。
「みのりさん、大丈夫ですか?ご気分がお悪いの?」
「あ、いえ、大丈夫です」
「お身体、大事にしなくちゃね。ご予定日はいつなの?」
「あ、12月です」
はたから見ても妊婦だって分かるんだ…
私は少し恥ずかしくなった。
加藤さんが退室し、程よくクーラーの効いたリビングには私と義母だけになった。
あんなちゃんとの写真鑑賞会は終わり、義母は、閉じた青いアルバムの上にぬいぐるみを置いて、目の前の庭を眺めていた。
「ひまわり、綺麗ね」
義母が幼な子をあやすようにあんなちゃんの顔をのぞきこみ、穏やかな口調で話しかける。
見たことのないほど、優しい顔で。
熊のぬいぐるみは、お義母さんが人生の中で、近しい者に注いできた全ての愛情の象徴なんだ…
今はこのままでいい。
お義母さんは、とても幸せなのだから。
あんなちゃんの黒い瞳が見つめる先には、去年と同じように群生したひまわりの花が優しく風に揺られていた。
【完】
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