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毎晩のようにキスを交わし、抱き合って眠っても体を繋げることはなかった。
男でありながら未通の“処女”である那音は、たとえレヴィであろうとセックスすることが出来ない。
もしも那音が婚約の契約を交わす以前に、他の男性と性交したというのであればこの“掟”は無効となり、いつ何時でも伴侶となる者と繋がることが出来る。
純度の高い始祖の血を後世に残すために、同じ血統を持つ者同士に関しては古くからの”掟“に縛られてしまうのだ。
近親婚は人間であれば禁忌とされているが、魔族には血を守るために推奨される場合がある。
特にバンパイアは純血種と言われる始祖の血を持つ者が少ない。それ故に、血統を継ぐために那音は他の男性との性交はもちろんのこと、正式な婚姻を結ぶまではレヴィとのセックスも許されないのだ。
想いが通じれば体を繋げたくなるのは自然なことだろう。だが、それが出来ない今、那音だけでなくレヴィもまた苛立ちを隠せずにいる。
レヴィの肌の感触と温度を思い出して体が疼き始める。
ぎゅっと唇を噛んでそれを我慢しながら、施設の敷地を出てしばらく歩いたところでタクシーをひろった。
*****
――二ヶ月後。
那音はイギリスにあるレヴィの本邸にいた。小さな街の郊外にある小高い丘をのぼり切った場所には、目を瞠るほどの広大な敷地。そこに建てられた豪邸の一画にある庭が見渡せるバルコニーで那音は一人、夜風に当たっていた。
何も遮る物のない空には眩いほどの星が輝き、ほんのりと満月があたりを照らしていた。
敷地内にある湖から流れてくる霧が綺麗に手入れされた庭を妖しく、より美しく見せている。
冷たい風が乱す髪を指先で払いながら左耳のピアスに触れてみた。
今は血のような赤色だ。それはまだ那音が人間である証拠なのだそうだ。その体が完全な魔物と化した時、ダイヤモンドは漆黒に変わる。
それも、もう間もなくのことだ。
「――那音様」
バルコニーへと出るガラス戸の向こうから聞こえた声に振り返ると、ノリスが心配そうな表情で立っていた。
「この辺は特に温度差がある場所です。夜風は体を冷やしますよ?」
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