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かなり古いものではあるが荘厳な造りの建物で、しっかりと閉ざされたドアの前には黒いフロックコートを着たレヴィが立っていた。
「異種族はここに入ることは許されません。那音様、レヴィ様の元へ……」
那音の肩からショールを外し、そっと手を離したノリスは恭しく一礼すると、レヴィは満足げに頷いた。
優雅に手を伸ばして、歩み寄った那音の手を掴むと迷うことなく唇を重ねた。
豪華な刺繍が施された彼の衣装は銀色の髪と深い紫色の瞳をより鮮やかに見せ、那音にとっては安心感を覚える表情だ。
黒いレースの手袋を嵌めた手で引き寄せられると、上を見上げるような身長差に改めて吐息する。
「那音――愛して……いっ」
綺麗な唇が言いかけた言葉を那音の人差し指が素早く遮った。
そんな二人を見ていたノリスが目を見開いたまま動きを止めた。
「――終わったら。全部、終わってから……聞かせて」
まるで小悪魔のように笑った那音にレヴィも嬉しそうに目を細めた。
ノリスが安堵するのが分かる。どうやら那音の言動に一喜一憂するのはレヴィだけではなかったようだ。
そんな彼に小さく会釈して、那音はレヴィを見上げて微笑んだ。
「行きましょうか……」
レヴィは那音の手を握ったままドアの前に向かう。二人がドアの前に立った時、渋い音を立ててゆっくりと扉が開いていく。
聖堂内は闇よりも暗い。しかし那音は不安も恐怖も感じることはなかった。
(この手を握っているのは間違いなくレヴィだから……)
一瞬、気管が収縮するほどの冷気に驚きながらも、落ち着いた足取りで歩き始める。
強力な結界内に足を踏み入れたことを知る。
二人の背後で扉が閉まる音と共に、レヴィと那音の婚姻式が始まった。
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