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その髪は時間を追うごとに透き通るような銀色に変わっていった。
レヴィは細い髪を指先に絡めながら、完全に体温を失った那音の耳朶を甘噛みした。
閉じたままの瞼を飾る睫毛は今よりも長くなり、赤い唇もどことなく笑みを浮かべているように見える。
透き通った肌にはレヴィの噛み痕はない。そのかわりに婚約の証とされた赤い鎖の痣がより赤くハッキリとしたものへと変わり、左耳につけられたピアスも今は闇のように黒い。
添い寝するように隣に横たわったレヴィにもまた変化が起きていた。
那音が口づけた首の根元に彼と同じ赤い鎖を思わせる痣が浮かび上がっていた。
契約の鎖――これが婚姻の証として互いの心と体を縛る。
心移りは許されない。永遠に一人だけを愛し続ける呪縛。
「――那音」
耳元で囁き続けながら、どのくらいの時間がたったのだろうか。
レヴィは浅い眠りに微睡みながら那音の体を抱きしめていた。
ふと那音の肩がわずかに揺れ、大きく息を吸い込む音に気付き、シーツに片肘をついたまま覗き込んだ。
長い睫毛が小刻みに震え、まるで西洋絵画の天使像のような瞼がゆっくりと開かれる。
その瞳は深く高貴な紫色で、虹彩はまるで闇を取り込んだかのように冷たく美しい。
わずかに開いた唇の端には象牙色の牙が見え隠れしている。
「那音……?」
目を開けてからしばらくぼんやりとしていた那音だったが、焦点が合い、すぐそばにいるレヴィと視線がぶつかる。
「レヴィ……?ど……したの?」
恐る恐る冷たい指先を伸ばして彼の首筋に現れた赤い鎖の痣をなぞっていく。
それは自分の首筋に現れていたものと同じだったが、透き通るような白い肌に絡まる赤の鎖から目が離せなくなった。
「キレイ……」
ふわりと微笑んだ那音にレヴィは優しく口づけた。
拙くはあったが、自分から舌を差し出す那音が愛おしくて仕方がなかった。
「これはお前の呪縛。俺は永遠にお前だけのものだ」
「俺の……呪縛?」
不思議そうな顔でレヴィをただ見つめていたが、クスッと小悪魔のように笑った那音は小さな牙を見せて目を細めた。
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