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「ただいま……」
頭上に下りて来た低い声に顔をあげると、そっと唇が重なった。
那音の頬を挟みこむように冷酷な灰色の瞳が愛おしそうに覗き込んだ。
「今日もイイ子にしていたか?」
婚姻を結んでからのレヴィは、那音をまるで子供を相手にするかのように話しかける。
時々、イラッとする時もあるが、これが彼にとっての愛情表現なのかと思えば苦にはならない。
普段、他人に見せる顔は冷酷で表情をあまり表に出さない“支配者”の顔だ。こうして見つめられ優しく微笑む彼の本当の顔を知っているのは自分だけなのだろうと思うたびに優越感に浸れる。
「――してないと怒るでしょ?」
「それはお前が心配だから仕方のないことだろう?本来の力を抑えていても男女問わず惹きつける力はそのままだからな。どこの下種に手を出されるかと考えただけで仕事も手につかない」
那音は少しムッとしてレヴィの頬を指先でつまんだ。
「そうさせたのは誰?言っとくけど、俺はレヴィ以外の男には興味はないから。もちろん女にも。誰から誘われようと、それはただの“食事”の相手。それよりレヴィの方が心配だよ。最近は昼夜問わず仕事に出かける機会も増えたし、人と会う事も多くなった」
「今までノリスに任せっきりだったからな……。彼の負担を考えた末の結果だ」
「だから心配なのっ。俺、結婚してから気がついたんだ。意外と独占欲強いって」
「バンパイアなら当たり前だ。自分の獲物、隷属、そして伴侶。すべてにおいて他人に手を出されることを嫌う種族だからな」
チュッと派手な音を立てて額にキスをしたレヴィは、ムッとしたままの那音の腰を抱き寄せてソファから立たせた。
煙草の匂いのするジャケットに寄り添うように体を寄せた那音は、呆れ顔で彼を見上げている。
「ノリス!あとは頼んでもいいか?」
少ししてドアの向こう側で「はい」と聞こえたのを合図に、レヴィはリビングを出て玄関ホールにある大きな階段を上り、二人の寝室へと向かった。
着ていたスーツの上着をソファに投げ、ネクタイをもどかしげに外す。
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