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20××年――J・イースト。 急激に進歩した科学と文化、そして経済によって人知れず財政破綻の危機に直面した国。 その危機を救ったのは人ならざる者の存在――魔物だった。 太古の昔から伝記や言い伝え、そして今や趣向に合わせた脚色で書きあげられた小説や物語には必ずと言っていいほど登場してきた。 ヨーロッパの各地で古くから続く由緒ある血統の持ち主は、国家をも動かすほどの莫大な財産を所有していた。 その血族がそれぞれ“救済”という名目で資産を出し合い、結果その金額が大きければ大きいほど、新たに設立した国家運営に影響をもたらす事となった。 この国の再生に介入し資金を出したのは、世界中どこに行ってもその名を聞けば誰もが恐れると言われる三つの血族。 そのうちの二つはバンパイア一族。しかし同族であっても互いの力を認めず、幾度も争いを起こしていることは有名な話だ。 そしてもう一つは狼族。バンパイアからしてみれば異種族という事もあるが、面倒な諍いには関与したくないということで中立的なポジションにいるのが現状だ。 争うどちらかが狼族を手中におさめれば、国家勢力は格段に変わるだろうと言われている。 もしも両者間で本格的な戦いが起これば、バンパイア一族のどちらかが滅びの道を選ぶほかないのだ。 しかし、前に述べたことはすべて水面下で行われていることで、何事もなかったかのように平穏に暮らす人間たちは知る由もない。 この事情を知っているのはごく一部――国家上層部でしかない。 長い歴史の中で人間に紛れながら生活を共にしてきた魔物たちもまた知る者は少なかった。 いわゆる下層階級と呼ばれる人間からの成り上がりや、階級、爵位を持たない魔物たちに知れれば、人間を下卑している分、自分が優位にたったと錯覚し、世に混乱を招きかねない。 そうなれば過去に中世ヨーロッパで起きた人間と魔物の争いのような惨劇を繰り返すことになりかねない。 それを危惧しているのは人間ではなく、むしろ魔物たちの方なのだ。 そうならないようにと監視の目を光らせていても、下層階級の者たちの手によって人間たちへの“害”は及んでいる。 無秩序な殺傷や不法な占拠。最近では若者を中心に広がりを見せているドラッグなどがある。 それがただの脱法ドラッグであれば警察が取り締まればいい。だが中には警察でも手に負えないものが出回っているらしい。
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