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軽口を叩く彼は両手をポケットに入れたままニヤリと笑うと、ゆっくりした足取りでベッドに近づいた。
「病み上がりのところ非常に申し訳ないんだけど、レヴィを復活させたついでにもう一人、お前の血を分けてもらいたい人がいるんだけど……」
「え……?」
混乱する那音とは裏腹に、いい雰囲気をブチ壊され機嫌の悪いレヴィがルークを睨みながら小さく吐息した。
「――何度も言わせるな。その眼鏡はお前には似合ってない」
「うるさいなぁ!今の俺は医師としてここにいるんだから、那音の様子を見に行くと言ったきり戻って来ないお前にとやかく言われる筋合いはないのっ。俺が呼びに来なかったら、那音と致しちゃってただろ?病み上がりの彼を襲うなんて、どこまで鬼畜なんだよっ」
軽く舌打ちをしてベッドから下りたレヴィは、状況がつかめずに呆然としている那音の耳元に顔を近づけて囁いた。
「無理はしなくていい……」
そんなレヴィの声も今の那音には届いていなかった。
ずっと気になっていた医師がルークだと分かった今、那音はそっちの方にすべての意識を持っていかれてしまった。
「本当に……医師なんですか?東都総合病院の総務課であなたの事を聞いたんですが誰も知らないって……」
「あれ?もしかして疑われてる?」
レヴィはベッドの横に置かれたソファに掛けられた、那音のために用意されたガウンを手に取りながら、苦笑して見せる。
「――どの世界にそんなチャラい医師がいる?」
「レヴィ、お前まで不信感を煽るような事を言うなっ」
ルークは身を屈め、ベッドに座る那音と視線を合わせるとずいっと身を乗り出した。
眼鏡のレンズ越しに深海のような青い瞳が二回瞬きする。
近くで見れば見るほどその瞳は綺麗で、吸い込まれそうになって那音はハッと我に返った。
「信じるか信じないかはお前次第だけど、杏美を目覚めさせるにはお前の血が必要だってことは事実だ。極度の貧血を起こしていただけに完全な体調の回復が認められなければ延期せざるを得ない。――だが!この男とチチクリ合って、しかもコイツの貧血まで回復させたってことは、もう完全な状態にまで回復したと判断する。だから――今のお前には拒否権はないっ!」
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