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「――彼女は優秀な研究者だ。隷属として手元に置く事には何の不満はない。それに、那音の血を入れたからといって俺との関係性が変わるわけじゃない。那音の血は婚約者である俺のみを承認し受け入れる。他人に対しての恋愛感情的なものは一切感じないはずだ。ただ主と隷属いう忠実な主従関係が生まれるだけ」
「それって……どういうこと?」
那音はレヴィを見つめた。しかし、その答えを口にしたのはルークの方だった。
「人間があれだけの傷を負って大量出血して生きている事の方が奇跡だ。更生施設からここに連れて来た時はもう、呼吸もほぼ止まりかけてた。時間も選択の余地もない状況で、レヴィは自分の血を杏美に分けた。――ここまで言えばもう分かるだろう?杏美はもう人間じゃない。バンパイアの始祖の血は絶対だ……」
「杏美さんが……バンパイアに?」
「たとえ驚異的な治癒力を持ったレヴィの血であっても、人間からバンパイアへの急激な体の変化に体力がついていかず杏美は眠ったままだ。その細胞を目覚めさせるには那音、お前の特殊な血が必要だ」
「俺の……?」
那音は俯いたまま黙り込んだ。自分のせいで重症を負い、その果てには人間ではなくなってしまった彼女。
しかし、このまま眠らせておくわけにはいかない。彼女は優秀な研究者であり更生施設の所長だ。
セロンがばら撒いたドラッグはまだほとんどが回収されていない。だからドラッガーたちが増えるのは必至だ。
そんな彼らを救えるのは彼女しかいない。
那音はベッドに手をついてゆっくりと床に足を置いた。
長いガウンを肩にかけたまま、ルークを見上げて微笑んでみせた。
「あなたを有能な医師と信頼して、俺の血を預けます」
ルークは驚いたふうに目を見開いたが、すぐに満足げな笑みを湛えながら口角をあげた。
「お前がそう言ってくれるならレヴィも文句はないよな?――マジで転職考えようかなぁ」
レヴィが経営する高級ホストクラブの店長兼ナンバーワンホストとしての地位を揺るがす発言に、レヴィが片方の眉をあげて睨みつけた。
ルークは「やべっ」と小さく漏らしながら、何か言いたげなレヴィを無視するように那音の肩を抱くとドアへと向かった。
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