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「――後悔、していませんか?」
杏美は意外だと言うような顔で驚くと楽しそうに声をあげて笑った。
「してないわよ。しても仕方がない。これが私に与えられた罰だっていうのなら、それに従うほかないもの」
「まだ……気にしてるんですか?」
「――自分の快楽のために大勢の人を殺めたことは永遠に消えない罪よ。だから今、その罪を償うために生かされてる。そうじゃなきゃレヴィは私を助けなかったと思う。彼とは長い付き合い。そう、これからもね……」
目を細めて微笑む彼女に、那音はなぜかほっと胸をなで下ろした。
レヴィの血を体内に入れ、急激な変化に耐えられず眠ったままになっていた彼女の眠りを覚ましたのは、かくゆう那音の血だ。
だから今、彼女の体には始祖の血が二種類流れている。それは複雑に混ざり合い、彼女を生かしている。
「――綺麗になりましたね。杏美さん」
「そう?あなたには勝てないわ、プリンセス」
那音は恥ずかしくなってわずかに俯いた。やはりその呼び方は好きではない。
「俺はまだ人間ですよ?知っているじゃないですか」
ゆっくりと顔をあげて栗色の瞳で彼女を睨んだ。
「それに……。その呼び方ははやめてください。俺はまだ……そんなんじゃ……ないしっ」
「あのレヴィがあなたにベタ惚れだものね。どんな人にも屈しない鉄壁の男があなたの前では跪いて許しを乞う。冷血なアルフォード公爵が変わったって一族の中ではちょっとしたセンセーショナルよ?」
「それじゃあ、まるで俺がフィクサーみたいじゃないですか」
那音は自分で言ってから思わず笑いがこみあげてきて、肩を揺らした。
「ミラードが失脚した今、正式にJ・イーストの約三分の二を手中に治めたわけだから、それなりに敵も多くなるわね。ま、穏和なダルトン家が紛争を仕掛けてくることはまずない。ただ、今の統治政権に不満を持つ政治家たちが水面下で動くことはあるかもしれない。そうなれば、嫌でもあなたに矛先が向くわ。それは覚悟出来てる?」
杏美は小さく吐息しながら那音を心配そうに見つめた。
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