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その色っぽい眼差しは、世の男性ならばすぐにでも押し倒したくなる衝動に駆られるだろう。 だが那音はやっとおさまった笑いに滲んだ涙を指先で拭いながら、「もちろんです」と明瞭に答えた。 「なんの承諾もなく婚約の証を刻まれたのは不本意だったと思いますが、今はレヴィと共に生きる覚悟は出来ています。人間の生を捨て、浅ましくも人間の血を糧に生きる魔物として永遠に生きること。糧を失えば己の体は朽ちていく。それはレヴィを見て分かっています。すべてを踏まえて俺は彼からのプロポーズを受けました」 その時のことを思い出しても頬が熱くなる。 レヴィにきちんとしたプロポーズをされたのは、杏美が目を覚ました翌日――二週間ほど前のことだ。 そして、すべてを聞いた。 古くから続くアルフォード公爵家だが公にされているのはイギリスでも類を見ない資産家で、あらゆる事業や貿易に介入し巨額の富を得ている……ということだ。そして、バンパイア一族の中でも隠されている秘密がある。 その実、アルフォード家は代々皇帝と同じく始祖の血を継ぐ名家であり、王家との関係は深い。 レヴィの父親であるセルディ・アルフォードは皇帝直属の機関総長として任命されていたが、彼亡きあとは公爵の称号と総長の座を息子であるレヴィに引き継いだのだという。 いわば皇族と親戚筋――しかもかなり濃い関係でなければ皇帝が信頼をおく総長には任命されない。 そのことを公にすればレヴィにも、そして皇帝にも危害が及ぶ可能性があったため、始祖の血を汲んでいることは極秘にされていたのだ。 歴史の古いただの資産家――と、一族の中でもそう浸透させている理由だ。 そんな彼と婚姻を結ぶには皇帝の許可と直属機関の承認が必要となる。その審議に多少時間がかかるため、レヴィとの婚姻は先延ばしにされているのだ。 却下されることはまずない。それは人間であっても那音のような特殊な血の持ち主であれば一族として快く迎え入れられると言う事が分かっているからだ。 そして、彼の邸のバルコニーで身体を包まれるように抱かれながら甘く囁かれた。 「改めて――。俺はこの身を懸けてお前を守り、永遠に愛する事を誓う。共に生きてくれるか?」
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