バイオロギング

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 とある研究室で、M氏が持ち帰ったばかりの画像を整理しているところにL氏がやってきた。彼はM氏の手元を覗き込みながら、 「それかい?君が発見した新種っていうのは」  そうだよ、とM氏は顔も上げずに答えた。 「聞くところによると、知的生命体だって?」 「相変わらず、情報が早いな」  彼はぎろりとL氏に視線を向けると、 「知能があると言ったって僕たちほどじゃない。ごくごく原始的な知能だ。それだけに、やっかいなんだよ」 「どこがさ?」 「短絡的な行動をとることがある。つまりうかつに近づくと、興奮して攻撃をしかけてくる可能性があるんだ」 「狂暴なのか?」 「いや、普段は……というか単体でいるときはほぼほぼ大人しいんだ。ただ群れるとヤバい。一気に攻撃性が高くなる。この画像を撮るのですらヒヤヒヤものだったよ」 「そりゃ、大変だったな」  M氏はまったくだと言いたげな顔で頷きつつ、 「本当はさ、もっと詳細なデータを集めたかったんだよ。行動範囲はどれくらいなのか、意思の疎通はどのようにするのか、コミュニティはいかにして形成するのか、どんな餌を好むのか、生殖行動はどんなふうにするのか、寿命はどれくらいか……。でも、写真を撮るのが精いっぱいだった。こちらも命あっての物種だからな。とりあえず、新種発見の報告だけはしなきゃと思って、写真だけ撮って帰って来たんだ」 「だったら、バイオロギングでデータを集めればいいじゃないか」 「なんだい、それ」  訊ねるM氏に対し一瞬眉をひそめてから、L氏は思い出したように、ああと言った。 「君は長期の調査旅行に出かけていたから知らないんだな。バイオロギングは近年導入された新たな手法でね、バイオロガーって装置を調査対象となる生物の体に取り付けるんだ。それにはカメラやGPSや無線機が内蔵されていて、その生物の行動範囲や生態を自動的に記録し、データを送信する仕組みになっている」 「それならこちらは離れたところからそれを受け取るだけでいいのか」 「そういうこと。我々が入り込めないような場所でも、生物が自ら記録を残してくれるわけだから、安全だろ?」
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