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……異国の地での再会は、実充が南泉に背後を取られるという不穏な形で今まさに祝われようとしていた。
祝杯の代わりに銃口を向け、久闊の挨拶の代わりに脅迫めいた言葉を投げて、それでも南泉は表向きの穏やかな態度をまだ崩してはいない。
実充は頭を動かさぬようにして視線だけを巡らした。
視界の端の壁面に、小さな身嗜み用の鏡が掛かっている。それを通して、後ろに立つ男の秀麗な美貌の上にある薄笑が、実充の目に不意に皓々と飛び込んできた。
鏡越しに南泉の冷酷な内面を覗いたような気がして、実充は静かに息を呑んだ。
南泉郁巳は華やかで常時笑みを絶やさぬ男である。一度見たらその貌を忘れるのは容易ではない。軟派にも映る美男子だ。異国の血が混じっているとかで肌の色は白人に近い。いっそ日本人とは別種の、異質な血統とさえ見える。
かつて陸幼時代、初めて南泉を見たとき、たしかに実充もこの男の持つ颯爽とした華美に、不覚にも心を奪われた。
しかしそれは南泉という男の内面を知らない誰もが彼に対して擁く、ごく表層的な憧れに過ぎない。
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