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実充ら駐在武官という役職はいわば、国際法でその存在を公に認められた情報部員、諜報員といっていい。
地理や軍事の調査のため、かなりの範囲で自由行動が認められている。実充が勤務時間中に官舎に物を取りに戻っても、別段不審がられることはないわけだ。歩哨に顔を見られたが、実充が単独行動をとるのは常のことなので、気に止めた様子もなかった。
実充は自室に戻り軍帽を脱いだ。この官舎へ住んで三年目だが私物は一向に増えない。壁際に薄ぺらい寝台、窓際に木机、部屋の隅に長方形のモノ入れ戸棚。壁際に夏用軍衣が掛けられ、出番を待っている。そろそろ衣替の時期であった。冬服では、そろそろ昼間は汗ばむ。
持っていた鍵束から一つを選んで、机の鍵付き抽斗を開ける。
身を屈め、中の貴重品類、数点の書類を確かめているところへ、背後から、冷たく固いものを不意に頭に突き付けられた。
後頭部に感じる無機質な感触はぴたりと静止して、実充の神経を研ぎ澄ます。
「……」
実充はゆっくりと三秒ほど動きを止め、そして静かに身を起こした。
銃口だということははっきりしていた。
そして、その主も。
「……やはり貴様か、南泉。見え透いた手を使ったのは何故だ? 事務所の俺の机を漁っただろう」
背後に向けて声をかける。
「ほう、やはり気づいたようだな。さすが駐在武官。勘が鋭い」
「…冗談はよせ、気づかないわけがないだろう。何故あんなことをした?」
「こうしてお前を誘き寄せるためさ…。私に背後をとられたらどうなるか、お前なら判っているだろう?
…なあ、ミツ…」
三年振りに聞く男の声はあの頃よりも、艶めきと冷淡さをそれぞれ三割ほど増していた。
第5章へ続く
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