醜顔

3/4
前へ
/24ページ
次へ
莉子にとって民子は曾祖母に当たるが、会ったのは東日本大震災で津波にさらわれた祖父、一太の葬儀の一度きりで愛情は感じていない。もちろん、義理や義務感もない。 むしろ、たった一度の出会いが、当時10歳の莉子には、恐ろしい印象を与えていた。曾祖母の半分が爛れ(ただれ)歪んだ顔は、本に描かれた化け物や妖怪といった類のものとそん色がなかったからだ。そんな顔の老女に「大きくなったね」と、ニィッと微笑まれて背筋が凍ったのだ。8歳の明人に至っては、泣いてしまった。民子は、それほど恐ろしい顔の女だった。 「曾おばあさん、怖い顔だったよね」 視線を那須連山に固定したまま言うと、「親戚の前で、そんなことを言ってはいけませんよ」と3列シートの真中に座った母親に注意された。 「だって……」莉子が口を尖らせると、「僕も怖かったよ」と隣の明人が援護に回った。 「火傷なんだから、仕方がないじゃない」 母親の奈々は大人だった。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加