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「もしかして、彩賀央好きなんですか?」  一つ、また一つと紡がれる音はどこか店内の空気に混ざるように穏やかに鼓膜を揺らす。  何故だろう。何故かこの声が穏やかなのに、息が詰まるようなそんな矛盾を覚えるのは。 「知ってるんですか…」 俺に視線を向けたままの男の人が、あのと小さく声を出して弾かれるように体が反応すると、俺は先ほどかけられていた問いかけを頭の中で思い出す。 好きもなにも本人ですとは言えない眼差しに俺はぐっと言葉を飲み込んだ。  好きという質問の答え言えるわけもなく、不審がられない返答を口にすると彼は大きく頷いて見せる。 「はい。デビュー作を以前買ってそこから。でも周りにはあんまり読んでいる人がいなくて」  あははと軽く笑っているけれど、俺としてはここで自分自身の小説の売れなさ具合を聞くとは思っていなかった。  彼は物腰柔らかくいきなりすみませんと頭をかきながら困ったように眉を下げているのに対して俺は小さく頭を下げる。 「そう、ですか」     
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