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前山さん。名の方はそういえば聞いたことがなかった気がするな。名刺は、家の何処にやってしまっただろうか。初めて出会って名刺を渡されたあの時から、この人はずっと変わらない。俺が見たことがあるのは飄々としている姿と仕事に一生懸命な姿。何とかなるとか、大丈夫だとか、それしか言わない人だ。結果として仕事をやりきってしまうらしいのだから、その面に関しては尊敬しているつもり。でも何を言っても肩透かしな部分も正直存在している。例えば。
「いやあ褒められても」
こういうところだ。
少しも褒めてはいない。そんな胸の内を曝け出すことはないけれど、この人の頭の中身がどういうつくりになっているのか一度見てみたい。先ほどから緩めることはなく眉を寄せた視界で前山さんを見ていると、小さく息を吐いた彼の視線が俺を捕らえた。
「でも締め切りに関しては彩賀さんがもっと早く出してくれていれば問題ないんですよ」
どうにも正面から顔を殴ってくるようなことを投げつけてくる。締め切りに関して俺は一言たりとも言い返すことが出来ないのも分かってのことだろうな。
明らかに言葉に詰まる俺の姿に前山さんは納得したのか、資料を手にして椅子から立ち上がると、先ほど俺に向けた辛辣な言葉はどこへやら。またいつもの笑顔を浮かべると。
「とにかく明日からは少し連絡が取りにくいと思うのでメールでお願いします」
それなら今日もメールでもよかったんじゃないだろうかと言いたい言葉を無理やり押し戻して首を縦に振ると、前山さんは更に話を続けていく。
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