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「ああ、それから。先ほど話した仕事内容もお願いしますね」
俺も席から立ち上がり、かけられたその話を頭の中で繰り返す。
今回の面談は編集という名目ではあったが別件で新しい仕事の話でもあった。
新しく雑誌で掲載する小話。各月ごとに一人の作家が担当して話を繋いでいく。役十人の作家で作り上げて一つの話にしていくというコンセプトらしい。恐れ多いながらも俺はその三番手を任されることとなったらしい。
恐らく俺の予想でしかないのだけれど、この話が上がったとき俺の名前を出したのはきっと前山さんだろう。普通の編集者が一番先に俺の名前をあげることはまず無い。俺が仕事をもらえているのは始まりのあの編集者と今の前山さんのおかげだ。
「ええ、分かりました」
せめて任された仕事ならばきちんとこなしていたい。頷いて返事をすると、前山さんはよかったよかったと言いながら俺の横を抜けて部屋の入口まで足を進めた。ドアノブに手をかけて再度労いの言葉をかけながら扉を開けると思い出したように口を開いた。
「締め切り大分先だからって後回しにしないでくださいよ」
既に二人の作家の小説が出来上がっているらしく、明かされない作家の名前の作品のコピーは俺の手の中にある。
「分かってますよ」
これ以上に言い返すための台詞が見つからず俺は持ってきた鞄の中に作品の資料を詰め込んだ。
「じゃあ来週にまた一度ご連絡します。今日お渡しした編集の件と、あとは今日お渡しした連載の件もあるので」
帰宅してからやるべきことを考えながら首を縦に振ると前山さんと共に廊下へと出る。ガラス張りに見える出版社の中はいつも慌ただしく見える。その中で俺自身もこんな仕事をしているなんて未だに信じがたい。
「あ、そうだ。ちょっと待っててください」
鞄の中身を確認してそれじゃあと口を開けた俺に、前山さんの静止がかかると彼は少しだけですと言って慌ててガラスの向こうの部屋へと入って行ってしまった。
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