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 ぼんやりとそのポスターを見上げていると、扉が勢いよく開いて前山さんの姿が見えた。 「お待たせしました。これ」  小走りにやってきた前山さんの手の中に握られていたのはどこか見覚えのあるそれ。 「これ」  それもそうだ。これは、先日発売になった俺の新作だ。 「どうして」  わざわざ持ってきたんですか。続けよとした言葉は尻すぼみになって消えていく。 「だって先生いつも献本断るじゃないですか。今回の表紙は俺力入れたんで持って帰ってくださいよ」 「でも」  自分の本をあの部屋に置くのはどうも気が引ける。本が見たければ自身のパソコンの中にデータが入っているのだから別にいいだろう。その考えから俺はいつも献本を断っていたのだけれど。 「まあ、一冊だけならそこまで荷物にならないでしょ。たまには持って帰ってくださいよ」  言いながら俺の鞄の中に無理やり本を詰め込もうとするその手を必死で止めようと手を出すも。 「あっ」  そう言って前山さんは俺の後ろを指さし、振り返ったその隙に本を鞄の中へと押し込めた。 「ちょっと」  慌てる俺をよそになだめる声が耳に届くと。     
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