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店員から本を受け取り、聞こえていないかもしれない大きさのお礼を告げて店舗の自動ドアから出ると先ほどの温い空気が再度体にまとわりつく。
「急ぐか」
まだ雨も降っていないのだから、今からなら降られずに帰宅できるだろう。そう思いながら一歩足を踏み出したその瞬間。俺の鼻を一瞬何かが掠めた。まさか。その嫌な予感を抱いたまま空を見上げると今度は俺の頬を水滴が跳ねていくのをはっきりと感じ取った。
それが始まりというように、降り出した雨は一瞬にして地面を濡らし、同時に俺自身も濡らされていく。
「…最悪だ」
そもそも本屋に寄ろうとした俺が悪いのだけれど、このタイミングでまさか降られるとは。
濡れた前髪の隙間から見えるのは慌ただしく走っていく人や、傘を指している人たち。折り畳み傘も持っていなければ、雨を遮る何かも持っていない俺も人に倣ってその場から走り出した。足元で跳ねる水が次第に靴に染み込んで一気に重さを感じていく。
どこかコンビニに入って傘を買うか。それとも、このまま駅まで走っていくか。まだ降り始めたばかりだから電車は遅延にはなっていないだろうが、念のため確認するか。
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