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今日も目の前に差し出された書類には己が書いた文字の羅列があり、盛大に赤いペンで指摘事項が書かれている。毎度これを見る時は自身の力のなさを思い知らされているようで。きっとかみ締めた唇のおかげでおかしな顔になっているだろう。
「いや、来てくれて助かりましたよ」
私服の中でもできるだけまだまともに見える格好で出版社へ行くも、あいつは誰だという顔を向けられるのは毎度のことだ。ペンネームを伝えて漸く理解してもらい小さな小部屋に入れられ、毎度落ち着かない気持ちのまま担当編集者がやってきて話が始まる。
赤く修正ばかりされた書類を机の上で笑顔を浮かべて整えている男。この人との付き合いはまだ一年ほどだ。俺が学生の時に担当していた編集者の人間はもう随分な立場になり、その引継ぎとして今のこの人がいるわけなのだが。
「助かったって、俺が行かなければ家まで来るって言ったじゃないですか」
悪態を含め溜息交じりで目の前の男に眉間のしわを寄せると、男は他人事のように笑い出す。
「だって俺明日からしばらく出張なんすよ。だから今日を逃したら絶対打ち合わせできないだろうなって」
京都なんですよ、お土産いりますかなんて暢気に言う男に手を振って断ると、残念だなあというまた暢気な声が重なっていく。
「だからといって締め切りで提出して疲れきっている人間をわざわざ呼ぶところはさすがだなって思います」
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