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親から名前を付けてもらうということは、この世に生を授かって初めてもらう愛情だとどこかで聞いたことがある。その話を聞いたとき俺はどこか他人事でしかなくて、一瞬でも親という存在に俺は愛というものを与えられたことがあったのだろうか。  恋愛とか、愛情だとかそんな人に対して与えられる感情が分からないまま、いつの間にか大人という枠に当てはまる歳まできてしまった。恋人がいなかったから恋愛が分からないという僻みみたいな話ではなくて、俺はそんな風に与えられる感情が本当なのかを信じることが出来ないんだ。だって、俺は。  生まれてすぐに、親に捨てられたのだから。  意外にもその事実を俺は物心ついたときにぼんやりとした頭で何かを感じ取っていた。俺に良くしてくれている女性を見ても、ああこの人は俺の親じゃないんだなんて子供ながら思ったことは今も忘れられない。不思議なほどに物分かりがよかった。  児童養護施設に預けられた俺を周りはかわいそうだと言って視線を逸らし、かける言葉すらなかったのか教師までも俺を腫物扱いするように接して話しかけてくることもなかった。小学生の頃はいじめられたこともあったけれど、あまりにも無反応すぎる俺を見た同級生は最終的には面白くなかったのかいつも飽きて何処かへ行っていた。  そんな俺に恋愛沙汰は疎か青春というものすら起きることもなく、ただ勉学に励む大人しい学生で若かりし時代を終わらしてしまったのだ。  可愛げがないまま育った俺はこうして可愛げのない大人へと成長していくわけで。現在可愛げのない二七歳になった俺はというと。 「…だめだ」  今もまだ愛情を知らないでいる。誰かを思う感情も、与えられる愛情も全部俺は生まれた時に捨てられたのかもしれない。きっと俺は愛されてはいけない人間なのだ。  だから神様は俺が生まれてすぐに親と引き離して俺を一人にしてしまったんだ。俺が誰にも愛されないようにと言って。  だから、俺は愛情を知らないんだ。
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