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「暇ね」  足元まで届く長い着物を着崩したような服装をした女性が神社の境内の上で頬杖を突きながらつぶやいた。顔が小さく目が大きいバランス良く整った顔は絶世の美女と言えよう。背中まで届く髪は艶っぽい。誰が見ても美女に間違いないその顔は気だるげな表情をしていても衰えることはない。 「スマホばっかり見てないで仕事してくださいよ」  私はが境内を竹ぼうきで掃除しながらぼやく。小学生低学年ぐらいの体格である私1人で境内を掃除するのは大変なのだ。 「んー。今日は体調が悪いのー」  ごろりと寝返りをうって私に背中を向ける。明らかな嘘に小さくため息を吐く。 「あ!」  突然彼女が大きな声を上げた。 「どうしたんですか?」 「ちょっとこれ見てよ!」  女性が少女のところに駆け寄ってきてスマホに表示されている画像を見せる。そこには切れ長な目をした美女が表示されており『にきびできちゃった』と書かれている。 「はぁ。にきびですか。体調悪いんですかね?」 「何言っているの! こいつは自分の顔を皆に見せて可愛いって言われたいだけなのよ」 「そうなんですか?」  少女が首をかしげる。 「そうよ! ほら見て! 寝起きって言っているくせに羽衣で口元隠してるじゃない。自分を可愛く見せようとしているのよ」 「はぁ。そんな弁天様のインスタなんて見てないでちゃんと仕事してくださいよ。吉祥天様」    私はまた始まったと心の中でつぶやいた。 「くっそー。あいつやっぱり調子に乗ってるなこのまえもフォロワー1億人超えたってわざわざラインで連絡してきたし」 「あの。信仰者の人たちをフォロワーっていうのやめてもらえます……」  私の悲痛な叫びは彼女には届かない。これもいつものことだった。 「なんで、弁天の奴はあんなに人気あるのかしら?」 「それは、弁天様は美の女神ですし、音楽や芸術の神様だからじゃないですか?」  吉祥天様が不服そうに頬を膨らませる。 「私だって美の女神だし、幸福と富をあたえる神様なんだけど」  子供のように不貞腐れる様子に少し気の毒な気持ちになる。 「そうなんですけどねぇ。やっぱりお金より芸術のほうが人気あるんじゃないですか?」 「納得いかない」
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