第一章「アイドルだって強くなくっちゃ」

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鬼種の少女は、穏やかな顔のまま獰猛な笑みを浮かべた。呼吸も平常時のように落ち着いている。生獣種の少女は、それを無言で睨み返した。 舐められている。頭に血が昇るのが分かった。確かに自分と相手では体格差がありすぎるし、今回は組技が認められていない純粋な拳での打撃戦だ。体格の差が残酷なまでに出るだろう。でも、それがどうしたというのか。この日のために頑張ってきたじゃないか。耐えてきたじゃないか。負けるのは怖くない。何も出来ないまま終わるのが怖いんだ。 布が巻かれた拳を強く握りこんだ。それに反応するかのように鬼種は両の拳を顔の前にあげた。準備は出来た、という無言の意思表明だった。二人のすぐ側にいた審判はお互いの目を確認する。そして大きく息を吸い込み、叫ぶように言った。 「始めツ!!」 何もかもが対照的な二人は、最初にとった行動も対照的なものだった。太い両腕で身体を覆うように構えた鬼種はその場から動こうとしなかった。対する生獣種は交互に脚を踏み鳴らし、鬼種を中心に左へと回り込もうとした。 「捷い小兵の常套戦術ってわけね」     
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