「ガラス」

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「ガラス」

硝子のハートは壊れても作り直すのが簡単だから凡庸性がとても高い。 例えばコップで頭をぶん殴られたら人は死ぬし、その時にコップは割れるだろう。その時の破片はうつくしいんじゃないかしら。そしたら、とても、充分。 なにが、って言われたら答えられないけど、充分。 『西南前方300メートル。数……は、ちょっと数えたくないかなぁ』 「あっはは……マジかぁ」 硝子よりも断然硬くて強くてうつくしくない刃物を両手に、わたしは無線機に苦笑いを返す。荒野の向こうで砂ぼこりが上がった。風が強い。無線機の向こうのあの子が使うライフルは使い物にならないんじゃないのかな。 まぁ、それでもどうにかするのだろう。それくらいの実力はある子だ。 「あーあ……寸刻み『カット・カット・カット』。これより殲滅を開始します」 『はいはーい。頑張ろうねぇ』 いつも通りの緩い返事に、また苦笑い。戦闘開始直前だからってわざわざテンションを上げないし、勝利したって喜ばない。そのスタンスはわたしも同じだから、とても気楽。 たん、と地面を蹴った。敵影は目視出来る。きっと相手はこの荒野にぽつんと立っているわたしへの対応に困っている頃だろう。 これより殲滅を開始します。 殲滅、は、敵の誰一人として見逃さずに殺す、ということだ。たかだか十代の女子であるわたしが口に乗せていい言葉ではないのかも。どうでもいいけど。 人を一人、殺しても、 わたしの心は硝子のハート、なので、 壊れてもあっという間に直せますよ、なんて。 もしかしたら、治せてないかもしれないし、硝子の欠片を拾いきれてなくてちょっとずつわたしの心は疲弊 しちゃってもうだめだめなのかも、だけど。 それはそれ、心が擦り切れるまで闘うまでだ。 硝子のハートは凡庸性は高いから、わたしも凡庸性の高い兵士になれるのだった。 2016年4月9日 フォロワーさまよりお題「ガラス」
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