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7年前。
2月の下旬。
この頃になると北の都・札幌にも
ようやく厳冬期を越えた感が漂い
雪に覆われた地面の下では
人知れず春への準備が始まる。
しかしその日は
冬が最後の悪あがきをするかのように
朝からひどく冷え込んだ。
終業時間まであと30分と言う時に
真里は当時のフロアマネージャーに
事務部の奥にある会議室へ呼び出された。
「忙しいところ悪かったね。」
フロアマネージャーは長机の椅子に腰掛けて
真正面に佇む真里に用件を告げる。
「単刀直入に言う。
川瀬君に福岡へ行って貰いたいんだ。」
「福岡・・・ですか?」
「そう、福岡だ。
4月からサブの席が1つ空くが
適任者がいないらしい。
そこで各支社に有能な人材がいないかと
問い合わせがあった。
私は前々から川瀬君をぜひサブにと思っていた。
だが残念ながら、この札幌支社では
当分サブの空きが出ない。
福岡でならいずれプロジェクトマネージャーの道も 開ける可能性が高い。
もちろんその前に試験に
合格しなければならないがね。
北から南へと遠くて大変だと思うが
考えてみてくれないか?」
プロジェクトマネージャーと同様に
各チームにサブは1人しかおらず
昇格の機会はそれほど多くない。
高山と蒼井は2年前の春に
一般的には30歳前後でなれるサブに
26歳と言う異例の速さで昇格している。
いつかは自分も彼らと肩を並べて
サブからプロジェクトマネージャーへの
階段を上っていきたいと思ってはいた。
しかし転勤が滅多にないこの企業で
札幌支社以外で昇格することなど
全く想定していなかった。
「はい・・・。」と答えたものの
突然の話に真里の頭の中は真っ白になる。
その後、フロアマネージャーは
転勤可の場合のスケジュールや待遇などを説明しこう付け足した。
「君ならきっと大丈夫だ。
いい返事を待っているよ。」
「ありがとうございます・・・。」
最後に返事の期限を確認し「失礼します。」と頭を下げて会議室を後にした。
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