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席に戻ると、隣で黙々と仕事をしていた蒼井がチラッとこちらを見た。
一瞬だけ視線を交わし、残った仕事に取り掛かる。
手持ちの案件のスケジュールが詰まっている為動揺しつつも残業をせざるを得ない。
2時間ほどの残業を終え真里は蒼井と共にイタリアン・レストランに立ち寄った。
7年後には姿を消していたカニクリームパスタが美味しいあの店だ。
窓辺の席は全て埋まっていた為
オープンキッチン近くの2人掛けの席に通された。
真里はいつものようにカニクリームパスタを
蒼井はボロネーゼを注文した。
パスタが出来上がるのを待つ間
真里は蒼井に福岡への転勤を打診されたことを打ち明けた。
「そうか・・・。」
蒼井はあまり驚いていないようだ。
「もしかして、知ってたの?」
真里の問いに蒼井は小さく頷いた。
「1週間くらい前にサブ以上にはフロアマネージャーから話があったんだ。でも正式に決まったわけじゃないから誰が行くかまでは知らされなかった。ただ声がかかるとしたら
真里しかいないんじゃないかとは思ってた。
やっぱりそうだったんだな。」
蒼井はテーブルに視線を落とした。
そしてポツリと呟く。
「悪い話じゃないよな・・・。」
蒼井の言う通りだ。
キャリアアップだけを考えるなら
真里とて二つ返事で福岡行きを決めてただろう。
これはかなりのチャンスなのだ。
しかし今の真里の最優先事項は、やはり蒼井だった。
蒼井くんと離れたくない・・・。
何よりも強いその気持ちが判断を鈍らせる。
それに真里には気がかりなことがあった。
年が明けた頃から蒼井の様子が少し変わった気がするのだ。
もちろん今まで通り優しく2人でいると楽しいし休みもたいていは一緒に過ごしている。
しかし時々、考えごとをしているのか
ふと黙り込むことが多くなった。
声をかけるとすぐにいつもの彼に戻るのだが
真里は何だか胸騒ぎがしてならない。
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