Ⅳ.春雷

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思い悩んだまま、瞬く間に迎えた金曜日の夜。 残業後、真里は蒼井と2人で 帰り道の居酒屋に立ち寄った。 いつもと変わりなくビールを飲みながら たわいもない話をして一緒に笑った。 店を出て、西18丁目駅に着いた頃には 夜の10時を回っていた。 会社や病院などが多い駅周辺は日中は賑やかだがこの時刻になると人影もまばらで車通りも少ない。 辺りはとても静かだ。 コツコツと歩道を打つ 2人の靴音だけが妙に耳に響いた。 真里を自宅に送る途中 大きな通りから小路へ入った所で 蒼井はふと夜空を見上げて言った。 「今夜は星がきれいだな。」 その言葉に誘われて、真里も天を仰ぎ見た。 黒く浮かぶビルの輪郭の遥か上に たくさんの星達が瞬いている。 街中では街灯やネオンに埋もれてしまい 密やかなその輝きが目に留まることもなかった。
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