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I.再会
ゴールデンウィークが明けた5月の初旬。
ようやく桜前線が到達し
春の訪れを感じさせる季節となったが
北の都・札幌の空気はまだまだ冷たい。
「手稲山に雪が残っているうちは
暖かくならんよ。」
8年前に亡くなった祖母の言葉をふと思い出し、
川瀬真里は街の西部に聳える手稲山を見上げた。
残雪が貼りつくように頂きを白く染めている。
その山肌を伝って雪の冷気が
街に降りてくるのだろうか?
手稲山は1023メートルとさほど高い山ではない。
しかし近隣の地域が
激しい風雨や大雪に見舞われても、
札幌はさほどでもない事が多々あるのは、
手稲山がそこに存在しているお陰らしい。
先人達はそれを知っていたからこそ、
この場所に街を作った。
手稲山はある意味、
札幌の守り神なのかもしれない。
「寒っ・・・。」
不意に吹き抜けた春風に思わず呟き、
真里はスプリングコートのボタンを留めた。
7年ぶりの札幌である。
毎年、盆と正月は
実家のある釧路へ帰省はしていたが
いつもほんの数日のことだったので
真里の体は転勤先の福岡の温暖な気候に
すっかり慣れてしまっていた。
薄いコート1枚では何だか物足りない。
「暖かくなるにはお祭りが終わらんとね。」
再び祖母の言葉が蘇る。
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