III.残夢

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・・・あれっ!? 目を開けると見慣れた現在の部屋だった。 テレビも電気もつけっ放し。 ソファーに身体を預けて いつの間にか寝てしまっていたらしい。 時計の針は午前4時過ぎを示している。 空も白んでいるようで カーテンの隙間がうっすら明るい。 もちろん例の映画はとっくに終わっている。 眠れそうにないなんて大嘘だわ。 真里は心の中で自虐気味に呟いた。 座るでも横になるでもない 中途半端な姿勢で眠っていたせいか 身体を起こすと首や背中が痛い。 イテテッ、と言いながらちゃんと座り直し 傍にあったクッションをギュッと抱き締めた。 思い出に浸っているうちに寝てしまったのか そもそも最初から夢だったのかは定かではないが 幸せな時間を噛み締めた後の現実はあまりに辛い。 何百キロもある重りを乗せられて もう浮かび上れないくらい深く深く沈められた気分だ。 「あーあ・・・。」 溜息混じりに声を出し ソファーの背もたれに身体を任せ天井を見上げた。 蒼井と交際していた頃に真里が感じた 包み込むような優しさや大切にされている喜び。 きっと今は全てあの女性(ひと)のものなのだろう。 いや、彼が自分に向けてくれた気持ちなど あの女性(ひと)へ注ぐ愛情に比べたら 蟻と象ほどの違いがあるに決まっている。 何しろ相手は蒼井が長きに渡り 恋い焦がれていた人なのだ。 そう思うと抑えきれない羨望と嫉妬に苛まれる。
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