III.残夢

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しかし。 それが仕方のない事だと わからぬほど子どもでもない。 自分が福岡で蒼井を思い続けながらも 何の行動も起こさずにいた7年の間に 彼を取り巻く状況は大きく変わったのだ。 大切な友人を亡くすと言う 悲しい出来事を経てではあるが あの女性(ひと)が手の届く存在になった。 蒼井があの女性(ひと)と 結ばれていたとしてもそれは自然なことと言える。 ただ真里は夏菜子にも言ったように その事実を蒼井の口から直接聞きたかったのだ。 それは我儘なのかもしれない。 だがあの女性(ひと)の事を尋ねた時に きちんと話してくれさえすれば どんなに悲しくても辛くても 「おめでとう。」と言えた自信はある。 しかし蒼井は何も話してくれなかった。 自分と過ごした時間や自分の存在さえ 無い事にされた気がして悲しかった。 と言うか。 そもそも自分と交際した事自体 蒼井の中ではとっくに無い事になっているのかもしれない。 そうでなければあんなに何事もなかったかのように 自分に接することはできないのではないか? もう何もかも悪い方にしか考えられない。 真里の思いは出口の無い迷路を彷徨い続ける。
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