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 それはさておき、先生のスピーチ(と呼ぶのは仰々しい気もするが)は続いていた。 「しんみりしたものにする気はないんだが、この歳になると、みんなとこうして顔を合わせるのもこれが最後かもしれないなぁって思うんだ。  いや、この歳になるとというだけじゃない。みな、家庭のある者も多いだろう。こうして集まることができていることすら、奇跡のような気がしているんだ。  幹事の平山くん、集まってくれたみんなも、本当にありがとう。  みんなもそうだ。それぞれの生活が続いて分かると思うが、どこかで縁があっても、いつが最後の日になるか分からない。  死別や喧嘩別れは悲しいが、それよりももっと、切ない別れが往々にしてあるものだ。気付いたら自分の人生の中に、もういなくなってしまっている人間はけして少なくない。  それに気付いたときの思いは、やっぱりどうしようもなく切ないものだ。  私は教員という職業を通して、毎年必ず多くの生徒と別れてきた。  自分が担任をしていなくとも慕ってくれた生徒がいたりもするもんだが、そのほとんどはそれ以降会うことがなくなるものだ。先生同士だって、転勤や退職がある。保護者の方々もそう。  だから、いつも念頭に一期一会の精神を置いていたつもりだ。  一期一会は、元々茶道の席に置いて、今日この席にいる人とのこの時間はもう二度とやってこないから精一杯のおもてなしをしよう、という意味合いからきている言葉なんだ。  今が過ぎれば、次また会える。そんなつもりでいたのに、いつの間にか会えなくなる人は多い。だからこそ、今日が最後だと思って目一杯みんなと飲めたらと思っている。  みんなも、小学生時代の同級生同士。積もる話もあるだろうし、これからまた会えなくなる者もいるだろう。いつでも会える環境や間柄にいる者よりも、久しぶりに会えた者同士で話せる機会になったら嬉しい。そう多くない人数だ。この日を大事に、過ごせたらと思うよ。  こんな機会を作ってくれて、本当にありがとう。辛気臭い話はここまでだ。飲もう」  そんな締めくくりだった。
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