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夏本番。
猛暑日が続く中、わたしは朝から甥っ子の陸都<りくと>を汗だくになりながら保育園まで自転車で送り、会社へと行く。
いつも変わらない光景。
恋人を亡くしたシングルマザーの姉とその息子の陸都と一緒にアパート暮らしを始めて5年。
緒方乃莉香<おがた のりか>、年齢25歳=彼氏いない歴だったわたしが変わったことと言えば、大工王子こと豊川賢雄<とよかわ けんゆう>さんと付き合い始めて2週間。
強引に姉が大工王子とわたしとをデートに行かせたのがきっかけ。
あの日から毎朝、アパート前の新築現場で働く彼にお弁当を渡すようになった。
『あの日』とは、大工王子からデートをした日に交際を申し込まれて、返事と連絡先を書いた手紙をお弁当と一緒に渡した日。
わたしは『目の保養だけの人』を作るものの、恋をすることはなかった。
恋人を亡くした姉と甥っ子をずっと支えるため、恋人は作らないと決めていた。
でも、大工王子を『目の保養だけの人』にできなかったのは、話してしまったから……触れられてしまったから……
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