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楽しみにしていた日はあっという間にやってきて、賢くんは車でわたしたちを迎えにきてくれた。
わたしたちを見た彼は、ハッとした顔になり赤くなりながら「二人とも素敵ですっ」と言ってくれた。
浴衣を着ることを伝えてなかったから驚くのも無理ないか。
「はい、はい、豊川さんはノリだけ見てればいいのよ~。さぁ早く行きましょ」
陸都を運転席側の後部座席に乗せ、その隣に姉が乗る。
賢くんは陸都のために簡易型のチャイルドシートを購入してくれていた。
彼の親友で万由の弟くんがカー用品店に勤めていて、そこで安く手に入れたらしい。
姉は悪いから料金を支払うと言っていたが、彼は「どうせオレの子どもが産まれたらまた使うことになるだろうし」とそれを断った。
その言葉にドキドキした。
「オレの子ども」というのは、「わたしの子ども」ということにもなるのだろうか。
何を考えているんだか。
まだキスもしていないというのに。
30分ほどして、花火会場近くの駐車場に着いた。
その間、話をしながら、助手席に乗るわたしはシフトチェンジする彼の腕や足の動きを見ていた。
彼の車はMT車。
発車と共に忙しなく左腕と左足が動く。
筋肉質な腕が、骨ばった手が、レバーに乗ってあっちこっちとスムーズにシフトチェンジする様はうっとりとしてしまう。
車から降りるときにその手が差しのべられて、わたしはすっと立ち上がった。
後部座席で陸都のチャイルドシートのベルトを外し、降りようとしていた姉にも手を差しのべ、また反対側へ回って陸都を降ろしてくれた。
どこまで王子なんだ。
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