そこは、どこまでも続くスーパーの店内であった…

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スーパーから出られない。 気づいたのは一時間も経ってからのことだ。 その日、俺はいつものようにバイト先に行くといつものようにロッカーで着替え、今日のシフトである寿司の調理場へと続くドアを開けた。 しかしその先が妙だった。 人っ子一人、誰もそこにいやしない。 時間の遅い寿司と惣菜担当のチーフの水間さんはともかくとして、ロッカーで俺に挨拶し先に着替えて出て行ったはずの安西さんや朝一番に来るはずの金子さんもいない。 時計を見れば午前八時、作業をしなければ間に合わない時間だ。 俺は不安になり、調理場の向うのガラス窓…本来客のいるフロアを見てぎょっとする。 そこに誰もいなかった。 品だしをするスタッフも、レジに向かうスタッフも、誰もいない。 俺は慌ててスイングドアを押し開けると、客のフロアへと飛び出した。 同時に妙なことに気がついた。 店の外、ドアの向うが明るい。 しかし、その明るさが日の光というよりはどこか人工物の白色のような気がして…。 そうして俺は外へと向かうドアへと近づき、息を飲んだ。 そこは、まるで鏡あわせになったかのように店内の光景があった。 そして俺が近づいた事に反応したのだろうか、センサーが働きドアが自動的に開く。 その向うには、こちらと同じ店の光景が広がっていた。 レジがあり、野菜部門があり、商品棚があり、惣菜のガラスばりの調理場まである。 俺はよろよろと後じさり、慌てて踵をかえすと先ほどの調理場のほうへと引き返した。 …これは何かの間違いだ、きっと、気のせいかなにかのタチの悪い冗談だ。 そんなことを考えながら、調理場の先のロッカールームへと続くドアを開ける。 とたんに俺は呆然とした。 そこは後ろに広がる光景と同じ…調理場であった。 正面には刺身等の鮮魚を扱う部門へと続く内開きのドア、右手には客側の様子が見えるガラスがあり、後ろは俺の担当である寿司を握るための調理場がある。 寸分違わぬ風景。 後ろに広がる同じ光景。 俺は一歩下がると、ふらふらと後じさりながらドアをしめた。 …なんでだ、どうしてこうなった? なぜ誰もいないんだ? そうして顔を上げるとふと鮮魚の調理場へと続くドアが目に入る。 …どうせ、ここも同じ感じなんだろ? そうして、半ばやけっぱちになった俺はドアに手をかけると一気に開けた。 とたんに、冷たい冷気が入って来る。 予想外な事にそこはいつも通りの調理場だった。
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