そこは、どこまでも続くスーパーの店内であった…

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俺はその光景にどこかほっとし、歩みを進める。 …なんだ、みんなどこかに繋がっているわけじゃないのか。 そうして、一歩踏み出したとき、妙な事に気がついた。 鮮魚の調理場の奥にある巨大な冷蔵庫。 寿司ネタの魚も保存する四畳半ほどの部屋。 その冷蔵庫の扉が、わずかに隙間をあけている。 そこから何かが覗いていた。 赤黒い肌、炯々とした目玉、そして唇の無い、むき出しの歯…。 それは俺を見つけるとさらにドアをひろげ…。 とたんに俺は弾けるように寿司の作業場へと戻り、ドアに作業台を押し当てた。 ついでドンッという衝撃がドアに走った。 見れば、開いた丸窓にそいつがいた。 顔の皮が剥がれ赤むけた顔。 皮膚がはがれてしまったがために飛び出た目玉。 唇が取れてむき出しになった歯。 それは血で赤黒くなった拳を振り上げ、がんがんと殴りつけている。 ついでタックルでもしたのか、ドアが開こうとするが作業台に阻まれる。 …なんだ、あれは一体なんなんだ!? 恐怖のために顔から汗がしたたり、押さえる作業台の上にぱたぱたと落ちる。 …頼む、頼むやめてくれ! そのときだった。 俺の祈りが届いたのか、押す力が弱くなった。 …よかった、あきらめたのか…。 それと同時にドアのむこうでキイッと言う音がした。 その音に俺は聞き覚えがあった。 …そうだ、鮮魚のほうにも客側のフロアへと出るスイングドアがある。 奴は、そこへ向かったのか? 回り道…そんな言葉が頭をよぎる。 …フロアから回って、別のドアから入るつもりか? だったら、入れ違いになって逃げるのが得策だろう。 そうして俺はなるべく音を立てないように作業台をどけ、ドアを開けると鮮魚のほうへと滑り込んだ。 鮮魚の調理場は寒い、冬は地獄だが夏はそこそこ快適だ。 …なんで夏休みの盆開けにこんなめにあうんだよ…。 そんなことを考えつつ鮮魚のフロアを進んでいると、先ほどの冷蔵庫が目に入った。 それは、片方だけが開いた扉。 中を覗くといくつもの発泡スチロールに入った魚が部屋の壁や中央の棚に積まれ、奥には冷凍庫へと続く扉がある。 そして、床を見た俺はぎょっとした。 そこには何か、かさかさに乾いた赤黒い紙のようなものが落ちていた。
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