そこは、どこまでも続くスーパーの店内であった…

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しかし、まわりにはところどころこびりついた赤黒い塊がついており、それが床に落ちた顔の皮だと気がつくのにそう時間はかからなかった。 俺はそのときなぜ片方の扉が閉まったままなのか考えもしなかった。 だからこそ、ふいに横の襟首をつかまれたとき抵抗出来なかったのだ。 そう、奴は調理場のドアを囮として開け、冷蔵庫の扉の反対側に身を潜めていた…! 床に引きずられる瞬間、胸につけていた名札が取れる。 俺の名前、「川田」と書かれたプレートがその場に残される。 『…俺には顔が無いんだ。』 そして、凍るような冷凍庫の扉が重い音をたてて開くと、むき出しの歯を見せた赤黒い顔はげらげらと笑った。 『だから、お前の顔をよこせ』 そして次の瞬間、俺の顔に激痛が走った…! *** 「…川田くんが盆休みでいないあいだ、職場は大変だったのよ。」 安藤はそう言うと、衣をつけた天ぷらを揚げはじめる。 その隣でバットに載せた揚げ物をパックにつめつつ金子が相槌をうった。 「そうそう、隣の鮮魚の神戸が冷凍庫で凍死しているところ見つかってさ。数日間、てんやわんやの大騒ぎ、原因は扉の歪みだったらしいけれど…。」 「でも、見つかった時は凄惨だったらしいわよ。顔とか手の皮が寒さで床にくっついちゃって、病院に運ぼうとしたらはがれちゃって、あんまりにもひどいから棺桶は閉めたまま火葬場に持っていかれたらしいし…。」 「チーフもあんまり話さないけどさ…噂じゃあ、神戸ってウチのチーフと仲悪かったんだって?なんでも高校時代からの同級生だったらしいんだけど片やスーパーのチーフで片やバイトだろ?もめてたらしいぜ?」 「…まさかチーフが扉閉めたなんてことないでしょうね?」 「いやいや、責任取らされるのは鮮魚のチーフだし、んなわけないだろ?…たぶん。」 そのとき、ちょうど調理場にチーフの水間が入って来た。 「うん、今日のヘルプはいらなさそうだな。ああ、川田くんおはよう。長期の休みはどうだった?おや、川田くん休みで太ったのかい?顔の肉がたるんで…。」 そんな水間の言葉が途中で止まる。 そして、それに続くかのように川田が声を出した。 『いえ…寒さで被らざるを得なかったんですよ…。』 そのとき、安藤と金子は気がついた。 川田のその声が普段の彼とはまるで違う事に。 そして次の瞬間、川田の皮を被った“それ”は包丁を振り上げると水間に襲いかかった…!
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