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「その方は、茶道家元のお嬢様でね。
泰隆さんの事は、憎からず想ってらっしゃったご様子。
彼と二人で連れ立って歩く姿を、よくお見掛けしたねぇ。
彼は色んな女性と浮名を流していたけれど、
このお嬢様だけは、特別だったらしくてね。
わかる気はしたねぇ。何せ、格別に綺麗な人だったからねぇ」
と、祖母は夢見るように語り始めた。
…お祖母ちゃん、目がキラキラしてる。
恋のライバルでしょ?悔しくなかったの?…
やよいは疑問に感じたが、黙って祖母の話を聞く事にした。
何故か、
素敵なお話を語るかのように祖母は微笑んでいたからだ。
「その人は、本当に美しい方でねぇ。
女の私でも惚れ惚れしちゃうくらいだったねぇ。
頭も良くて。でも決して前に出過ぎる事も無く。
私も憧れる女性だったねぇ」
懐かしむように、言葉を紬ぎ始めた。
「…背はそう低くも無く、高くも無く。
泰隆さんと並んで歩く姿は、一枚の絵みたいに綺麗で。
とってもお似合いのお二人だったねぇ。
彼女の名前は瑠璃子さんと言ってね。
私より一つ年上のお姉様だったよ。
真っ黒で艶々した髪を肩の下まで伸ばしていてね。
…ハーフアップ、と言うのかね…そして赤いリボンで結んでいて。
目はパッチリと大きくて、色白で。
目鼻立ちがクッキリした美人さんだったねぇ。
少し目尻が上がり気味で、勝ち気で誇り高い御姉様だったね。
薄紅色と紅色の袴姿がよく似合っていたねぇ」
本当に懐かしそうに語っている。
「だけどねぇ…」
不意に、声のトーンを落とし、沈んだ面持ちになった。
思わず話に惹きこまれるやよい。
「瑠璃子御姉様にご両親が決めた縁談は、泰隆さんでは無かったんだよ。
当時は、親の言う事は絶対だったし、茶道家元というお家柄、
色々な事情が絡んでいたみたいでねぇ。
二人は大人の事情で、引き裂かれてしまったんだよ」
と哀しそうな目をして、やよいを見つめた。
…不思議なお祖母ちゃん、
お祖父ちゃんの事、ずっと大好きだったんでしょ?…
疑問に思いながらも、黙って話に耳を傾けた。
「その後、私の縁談が舞い込んで。
泰隆さんにしたら、やけっぱちだったよねぇ。
瑠璃子さんじゃなければ、誰でも同じだ!みたいにね。
お陰で私との縁談が成立したんだよ
私は、ラッキーだったけどね。泰隆さんは、憧れの人だったし」
うふふふふっ、と祖母は嬉しそうに笑った。
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