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「泰隆さんは、結婚しても相変わらず色んな女の人と浮名を流したねぇ」
祖母は懐かしそうに目を細め、アルバムを見つめる。
…おばあちゃん、嫌じゃ無かったのかなぁ。私なら嫌だな。
旦那さんが、他の女の人と、なんて…
やよいは思う。しかし、口を挟まずに話に聞き入った。
不思議な程、穏やかな祖母だった。
「結婚しても、片想いの日々だったから、
アルバムにね、あの人の想いを綴ろうと思ってね。
アルバムに出て来るこの金の蝶々は泰隆さん。
押し花達は彼を取り巻く女性達を現したんだよ。
蝶は特定の花を持たないからねぇ。
ほら、藤色の小さな蝶々、いつも金の蝶々に寄り添ってるだろう?」
と祖母はアルバムを指さした。
「あ!本当だ!よく見ると金色蝶々の隣に寄り添っている」
やよいは声を上げ、アルバムを捲った。
その全てに押し花と金色蝶々、
その隣にひっそりと寄り添うようにして舞う藤色の蝶々がいた。
そう言えば、祖母は藤色がよく似合う。
今着ている小袖も藤色だ。
「せめて、アルバムの中だけは、あの人の傍にいたくてねぇ」
そう言って祖母は、照れたように笑った。
心もち頬を染め、まるで少女のようにはにかんだ笑顔。
思わず見惚れてしまうくらいに可愛らしかった。
アルバムは、梅や桜、菫や露草、月見草など、小ぶりな花を
金色蝶々と寄り添う藤色の蝶々の周りに品よく綺麗に咲かせている。
どのページも、溜息が出る程だ、まさに芸術品だった。
そしてその花の一つ一つに、祖母の想いが込められている。
少女のピュアな想い。ただ、泰隆さんが好き。
彼を取り巻く花々に、嫉妬や恨み等があったなら、
これほどまでに純粋で美しい押し花は作れまい。
そして見る人を優しい気持ちにさせる事等出来ないであろう。
物には、作りての魂が宿る。
本当にそうだ、とやよいは感じた。
ページを捲っていくと、そこだけ異質のページがあった。
紅の牡丹の押し花に、この小さな可憐な花。これは…?
「あー、懐かしいねぇ。
それは泰隆さんが初めて私を花に例えてくれた時にね…」
祖母は嬉しそうに語り始めた。
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