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でも今日は、その雰囲気がいつもと少し違う。普段見かけない、
高校生くらいのカップルが店内にいるせいだ。ほぼ正方形をして
いる店内の、ワタシから見て丁度対角線側の真反対。席をダラっ
と陣取っている彼らは、スマホで楽しそうにお互いの写真をパシ
ャパシャ撮り合っている。
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そう言えば最近、撮影した顔をその場で変顔や、動物や、キャラ
クターに編集できるアプリが流行ってるんだっけ。落ち着いた雰
囲気がこの店の魅力なのにな。あぁ、俗っぽさに調子が狂う。
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どこでここのことを知ったのか知らないけれど、このワタシのお
気に入りスポットも、ああやって彼らのケータイで、彼らの着崩
した制服みたいに粗雑に扱われて潰されて行くのかな。爆発しろ
、とまでは言わないけれど、もう少し何とかならないか、とか考
えてみる。
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ふと横に目をやると、高校生カップルからひと席空けた所に、大
学生くらいかな、男性が座っている。今まで気づかなかったけど
、良く見たらちょっとイケメンかも。頭が良さそうに見えるのは
、かけているメガネのせいかもしれない。ゆるめに着こなしたカ
ーディガンはワタシの好み。
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塩顔男子って言うのかな。細身だけど華奢には見えない彼は、キ
レイだけど男性的な手で、自分の手帳に何やらいそいそと書き込
んでいる。眉にかかる前髪を、自然な動作で払う姿が不意に色っ
ぽい。いかにも、趣味は読書です、って言いそうだ。彼も「こん
なことになるなんて」好きかな?
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彼のことを、勝手に塩顔クンと名付けてみる。塩顔クン、彼女は
いるのかしら。いつの間にか、例のカップルが狂わせた店内の雰
囲気も、あなたの存在のお陰で全然気にならなくなったよ。
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あの手帳は、きっと講義とバイトシフトの調整をしているところ
なんだろう。今の時期テストとかも近いし、授業休めないもんね
。もしかしたら優秀だから、教授からの期待とかも色々背負って
て、それに応える為に次の論文のアイデアなんかを練ってるのか
も。
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ふと我にかえると、そもそも、偶然目に入った男の人をまじまじ
見つめながら妄想膨らましてるって、ストーカーも良いところだ
と気づく。ただそう考えると途端に目のやり場が無くなって困る
ので、とりあえず手元のティーカップを無意味に観察してみる運
びとなった。
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※作中の登場人物名、団体名等は全て架空のものです
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