「こんなことになるなんて」

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でも今日は、その雰囲気がいつもと少し違う。普段見かけない、 高校生くらいのカップルが店内にいるせいだ。ほぼ正方形をして いる店内の、ワタシから見て丁度対角線側の真反対。席をダラっ と陣取っている彼らは、スマホで楽しそうにお互いの写真をパシ ャパシャ撮り合っている。 -- そう言えば最近、撮影した顔をその場で変顔や、動物や、キャラ クターに編集できるアプリが流行ってるんだっけ。落ち着いた雰 囲気がこの店の魅力なのにな。あぁ、俗っぽさに調子が狂う。 -- どこでここのことを知ったのか知らないけれど、このワタシのお 気に入りスポットも、ああやって彼らのケータイで、彼らの着崩 した制服みたいに粗雑に扱われて潰されて行くのかな。爆発しろ 、とまでは言わないけれど、もう少し何とかならないか、とか考 えてみる。 -- ふと横に目をやると、高校生カップルからひと席空けた所に、大 学生くらいかな、男性が座っている。今まで気づかなかったけど 、良く見たらちょっとイケメンかも。頭が良さそうに見えるのは 、かけているメガネのせいかもしれない。ゆるめに着こなしたカ ーディガンはワタシの好み。 -- 塩顔男子って言うのかな。細身だけど華奢には見えない彼は、キ レイだけど男性的な手で、自分の手帳に何やらいそいそと書き込 んでいる。眉にかかる前髪を、自然な動作で払う姿が不意に色っ ぽい。いかにも、趣味は読書です、って言いそうだ。彼も「こん なことになるなんて」好きかな? -- 彼のことを、勝手に塩顔クンと名付けてみる。塩顔クン、彼女は いるのかしら。いつの間にか、例のカップルが狂わせた店内の雰 囲気も、あなたの存在のお陰で全然気にならなくなったよ。 -- あの手帳は、きっと講義とバイトシフトの調整をしているところ なんだろう。今の時期テストとかも近いし、授業休めないもんね 。もしかしたら優秀だから、教授からの期待とかも色々背負って て、それに応える為に次の論文のアイデアなんかを練ってるのか も。 -- ふと我にかえると、そもそも、偶然目に入った男の人をまじまじ 見つめながら妄想膨らましてるって、ストーカーも良いところだ と気づく。ただそう考えると途端に目のやり場が無くなって困る ので、とりあえず手元のティーカップを無意味に観察してみる運 びとなった。 -- ※作中の登場人物名、団体名等は全て架空のものです
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