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「いいか、西倉。日本どころか世界へ行けるくらいに、キミには未来がある。例え卒業して付き合っても、できる限り人目を避ける必要があるだろうし、楽しい恋愛なんて出来ないかもしれない。男と付き合う事は障害にしか―――」
「大丈夫だ、先生。」
必死で話していると、ぎゅうぎゅうに握りしめていた瞬の手が、ふわっと温かくなった。上から、西倉の手が重ねられたのだ。
「オレだって、何にも考えてない訳じゃないって。普通のヤツから見れば男同士が、キモいって思われるのも、コソコソしなくちゃいけねえのも分かってる。でもな、先生といられるなら、オレは何でもいい。色々不自由があっても、先生と一緒にいれたらきっと幸せだ。」
西倉がニッと笑い得意気に言い放つ。
根拠など何もない。
ただの願望だ。
でも、バカみたいに楽天家の西倉に呆れたのか、それとも重ねられた手の温度に安心したのか、瞬の肩からゆるゆると緊張が解けていく。
我ながら単純だ。
もういいかな―――と、思う。
「まあ、最悪バレても、平気で跳ね返すくらいになってみせる。だって、オレ、天才だし。」
「ばか、調子に乗るな。」
どこまでも強気な西倉に、瞬は呆れ半分で笑った。もう半分は憧れにも似たような気持ちが沸いてくる。
ダメになる事を心配するより、ダメにならないように頑張ってみたい。そう、単純に思った。
―――あ~あ、信じられないな。
何だか、意固地になっていた自分がおかしくなってきた。西倉を言い伏せる気でいたのに、何故か反対に瞬が説得されてしまっている。
負けた気がしないでもない。少し悔しくて、とても嬉しい。
「仕方ないから、予約されてあげるよ。」
ふふん―――と、瞬が偉そうに笑うと、西倉の腕の中に包まれた。ぎゅうっと抱き潰さんとする勢いで抱きつかれ、堪らず西倉の背中を叩きながら、瞬は思う。
この恋を全力で守ってみようじゃないか。馬鹿みたいに、好きだと訴えるこの胸に誓って―――。
End.
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